M&Aの際に発生するもの。日本基準とIFRS基準で扱いが異なる
簿記2級の資格を持っている方、もしくは勉強中の方なら、勘定科目としての「のれん」を学んだ経験をお持ちだと思います。
しかしこの「のれん」、経理業務に携わっていてもそうそう日常的に出てくるものではありません。企業間のM&Aの際に出てくるこの「のれん」について、今回はおさらいしてみましょう。
「のれん」とは?
企業がM&Aで別の企業を買収して支払った金額が、買収先企業の純資産を上回った場合の差額を「のれん」といいます。
のれんは、企業の「超過収益力」とも説明されます。のれんは、買収先企業のブランド価値や技術力、販売ネットワーク、人的資源などの見えない資産価値を表すものなのです。なお、M&Aの際に支払った金額が買収先企業の純資産を下回る場合もあります。その場合の差額は「負ののれん」と呼ばれます。
たとえば、A社が純資産50億円のB社を60億円で買収した場合、差額の10億円がのれんということになります。これはA社が、B社の持つ無形の価値を10億円と評価したとも言えますね。逆に、A社がB社を45億円で買収した場合は、B社の純資産を下回る5億円は「負ののれん」ということになります。
日本基準での「のれん」処理方法
日本の会計基準では、賃貸対照表に無形固定資産として計上されたのれんは20年以内の期間で償却していくこととされています。最大20年なので、展開の早い企業では早めに5年くらいで償却する場合もありますし、製造業などの安定した企業では償却期間が長くなる傾向があります。
なお、日本基準では定額法でのれんを償却していくことになりますが、固定資産に分類されるため減損会計の適応基準となります。そのため、のれんの価値が著しく下落している等の場合は減損処理をすることになります。
のれんの持つブランド力やノウハウなどの付加価値は、買収後に初めて企業の利益に貢献することになります。のれんを償却することの本質とは、のれんの持つ価値を消費することによって事業展開した結果であると言えるでしょう。
IFRS基準での「のれん」処理方法
IFRS基準(国際会計基準)では、原則としてのれんの償却は行いません。のれんの価値が著しく損なわれた場合のみ、減損処理をすることとなっています。
近年は日本国内でも大規模なM&Aが増加しており、そうした場合はのれんの計上額も大きくなります。日本基準では、M&Aが効果を生んでいる場合も毎年のれんの償却が必要なため、のれんの費用化により収益を圧迫する恐れがあります。そのため、M&Aを積極的に行う企業では、IFRS基準を採用することが多くなっています。IFRS基準であれば、のれん償却をする必要がない分利益が増えるということになるからです。
現在はのれん償却を行わないIFRS基準ですが、IFRSを策定するIASB(国際会計基準審議会)は、のれんの費用計上の義務化を検討中とされています。近年中に結論が出ると思われますが、のれん償却が義務づけられれば、IFRS基準を採用している企業には大きな影響が出るでしょう。
まとめ:「のれん」から、企業買収のニュースにも注目!
のれんとは何か、そして会計基準による扱いの違いを見てきました。
大規模なM&Aのニュースが話題になることも多くなっており、新聞記事などを読むと「のれん」や「IFRS」について触れられていることもよくあります。
のれんや会計基準の観点からそうしたニュースを見てみれば、新たな学びが得られるかもしれませんね。